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POLARBEARの概要

POLARBEAR はチリ・アタカマでの観測を予定している宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測実験です。 実験グループはアメリカ、日本、カナダ、イギリス、フランスの5カ国、カリフォルニア大学バークレー校やKEKなどの9つの大学や研究機関からなる国際コラボレーションで、約40名の共同研究者が協力して実験を進めています。 観測予定地チリは標高が高く、乾燥していることなどから観測に非常に適しており、KEKグループの参加するもう一つの地上実験 QUIET など数々の観測がそこで行われています。

観測サイトが優れている以外にも POLARBEAR はいくつかの優れた特徴を持っています。例えば、超伝導技術を用いた 1000 個以上の素子からなる光検出器、それらの大量の素子からデータを読み出す技術や大型の望遠鏡などを用いることなどが挙げられます。これらの技術を用いることにより世界最高レベルの CMB 偏光測定感度を達成することを目指しています。

以下では、POLARBEAR のいくつかの特徴についてもう少し詳しく述べていきます。

1000 個以上の素子からなる光検出器 (超伝導TESボロメター)
SQUID を用いた多チャンネル読み出し技術
直径 3.5m の望遠鏡

1000 個以上の素子からなる光検出器 (超伝導TESボロメター)

CMB の偏光は非常に微弱な空の信号パターンを読み取らなければなりません。そのためには、検出器の感度を限りなく高くする(すなわち、雑音を小さくする)必要があります。 POLARBEAR では小さい雑音レベルを達成するために超伝導の技術を用いた光検出器、アンテナ結合型超伝導 TES ボロメターを用いています。

超伝導 TES ボロメターは CMB の光が入ってきたときのエネルギーを熱に変換し、そのときに生じる僅かな温度上昇を検出することにより、微弱な光を検出します。これには TES (Transition Edge Sensor) と呼ばれる技術が用いられています。これを実現するには素子が超伝導状態になる温度、1K より低い温度まで冷やさねばならず、それを実現するために3Heと4Heによる希釈冷凍機などを用います。

下図は、直行する二つの偏光方向にそれぞれ感度を持った二つのアンテナとそれぞれにつながる一対の超伝導検出器の写真です。超伝導検出器の部分の大きさは約 100μm です。

さらに、実はいくら感度の良い検出器を用いても、一つの光検出素子だけでは原理的な限界(光子の数の統計的なゆらぎ)があり、CMB の B モードをとらえるにはまだまだ十分ではありません。それを克服するために、POLARBEAR では、光検出素子を大量に並べることにより統計誤差を小さくします。数多くの実験が検出器を多くする努力をしていますが、POLARBEAR は世界最大規模の 1000 個以上の素子を並べ、観測を行う予定をしています。以下の写真のように一枚(約 80mm )に約 200 個の素子を持つシリコンウェーハを7枚並べ、小型でかつ大量のチャンネルを実現します。

SQUID を用いた多チャンネル読み出し技術

上で述べたような検出器で微小な光は電気信号へと変換されますが、それでもまだまだ小さな電流にすぎません。それを次に SQUID (Superconducting Quantum Interference Device) と呼ばれる、超伝導技術を用いた素子で読み出します。

さらに、1000 チャンネル以上もの読み出しには、それらの信号を読み出す大量な配線が必要となります。しかしながら、すべてのチャンネルから一本一本の線を使って読み出すのは配線するのが大変ですし、何よりも極低温にしておかなくてはならない検出器へと熱が流入する元になってしまいます。そのために、複数の周波数帯を異なるチャンネルへと割り当て、一本の信号線から複数のチャンネルを読み出します。それにより、配線の数と消費電力の削減を達成します。

下の写真は、実際に POLARBEAR で使われている SQUID がのったボードの写真です。この一枚の SQUID ボードで 64 チャンネルの読み出しができます。

直径 3.5m の望遠鏡

もうひとつの特徴としては、CMB の観測としては大きめの直径 3.5m の主鏡を使っていることが挙げられます。 電波観測において望遠鏡の主鏡が大きいということはそれだけ角度分解能が優れているということを意味しています。 POLARBEAR の望遠鏡 (Huan Tran Telescope) は 4分角 (FWHM) の分解能を持っています。 そして、角度分解能が優れているということは POLARBEAR が目指す物理のページで述べられている重力レンズ効果により生じる B モード偏光を見つけるためにはとても重要です。 高角度分解能な望遠鏡と高感度な検出器を兼ね備えた POLARBEAR は B モード偏光の発見に対して、非常に優れた実験であると言うことができるでしょう。